走るたびに、ほんの少し尿がもれる。「自分だけかもしれない」「恥ずかしくて誰にも言えない」——そう感じて、ひそかに悩んでいる方は少なくありません。でも、ランニングのように高い衝撃のある運動では、尿もれは決してめずらしいことではないとされています。
この記事では、なぜ走ると尿もれが起こるのか、その仕組みと、自分でできる骨盤底筋ケアの考え方を、研究をもとにやさしく整理します。
走ると尿もれする ― それ、あなただけではありません
あるメタ分析では、女性アスリートのおよそ4人に1人(約25%)に尿失禁がみられたと報告されています(出典1)。さらに、尿もれを理由に運動の強度を控えたり量を減らしたりする女性も少なくなく、症状のために運動を制限する人は最大で2人に1人にのぼるという報告もあります(出典2)。
つまり、「走ると少しもれる」のは、あなた一人だけの問題ではありません。多くの女性が、同じ経験をしています。
なぜランニングで尿もれが起こるのか
走る動作では、着地のたびに腹圧(おなかの中の圧力)が一気に高まります。その衝撃は、骨盤の底でぼうこうなどを支えている「骨盤底筋」に、くり返し伝わります。
この負荷を支えきれないときに、運動時に尿がもれる腹圧性尿失禁が起こりやすくなると考えられています(出典3)。くしゃみや咳でもれるのと、基本的には同じ仕組みです。
「たくさん走っている」「鍛えている」のに、なぜ?
「運動しているのに、どうして?」と感じるかもしれません。けれど、全身の体力と、骨盤底筋のはたらきは別ものです。むしろ、高い衝撃のある運動そのものが、骨盤底への負荷になります。
実際に、出産経験のない若い女性アスリートにも尿もれは報告されており、あるエリート持久系選手の調査では、その多くが未経産であったにもかかわらず、約45%がくしゃみや咳などでのもれを経験していました(出典4)。また、尿もれのあるランナーが、ない人と同じか、それ以上の骨盤底筋の筋力をもっていた例もあり、「筋力さえあれば起こらない」とは言いきれないことがわかってきています(出典2)。
ランナーのための骨盤底筋ケアの考え方
骨盤底筋のトレーニングは、腹圧性尿失禁に対して根拠のあるケアの一つとされています(出典5)。ただし、効果には個人差があり、「必ず治る」というものではありません。
日常に取り入れやすい工夫として、「ザ・ナック」と呼ばれる考え方があります。咳・くしゃみ・着地など、おなかに力が入る“前”に、あらかじめ骨盤底をそっと引き上げておく、という方法です。
なお、女性の筋力系アスリートを対象としたある調査では、尿もれの症状がある人のうち、専門家に相談したのは約9.4%にとどまったと報告されています(出典3)。一人で抱えこまず、まずは「自分の状態を知る」ことから始めてみてください。
まず「自分のタイプ」を知る
ここで大切なのが、骨盤底筋は「締める」ことだけが正解ではない、という点です。
人によっては、骨盤底筋がむしろ緊張しすぎている場合があり、そのときに、やみくもに締める練習を重ねても合わないことがあります。だからこそ、まず自分がどんなタイプなのかを知り、それに合わせてケアを選ぶことが大切です。
(関連記事:「骨盤底筋は『締める』だけじゃない ― 締めすぎ・緊張タイプの見分け方」/「ケーゲルだけじゃない ― 骨盤底筋ケアの3つの段階」)
こんなときは受診を
次のような場合は、自己判断せず、医療機関にご相談ください。
- 痛み(下腹部・骨盤まわり・排尿時など)がある
- 尿に血がまじる
- 急に症状が悪化した、またはもれる量が急に増えた
- 残尿感が続く、その他の気になる症状がある
また、妊娠中・産後の方、治療中の病気がある方は、ケアを始める前に医師などの専門家にご相談ください。
よくある質問
Q. 走る前にできることはありますか? 着地などでおなかに力が入る前に、骨盤底をそっと引き上げる「ザ・ナック」を意識する方法があります。無理のない範囲で取り入れてみてください。
Q. 一時的に走るのをやめたほうがいいですか? 必ずしもそうとは限りません。多くの場合はケアを続けながら運動も続けられるとされますが、痛みなどがあるときは中止し、医療機関にご相談ください。
Q. 出産していなくても起こりますか? はい。出産経験のない若い女性アスリートにも、尿もれは報告されています(出典4)。
出典
- Pires T, Pires P, Moreira H, Viana R. “Prevalence of Urinary Incontinence in High-Impact Sport Athletes: A Systematic Review and Meta-Analysis.” Journal of Human Kinetics. 2020;73:279–288.(女性アスリートの尿失禁有病率 約25%)
- Berube ME, et al. 女性ランナーの運動誘発性腹圧性尿失禁と骨盤底筋に関する研究. Neurourology and Urodynamics. 2023.(運動の制限・骨盤底筋機能)
- Mahoney K, Heidel RE, Olewinski L. “Prevalence and Normalization of Stress Urinary Incontinence in Female Strength Athletes.” Journal of Strength and Conditioning Research. 2023;37(9):1877–1881.(腹圧性尿失禁の機序・相談率 約9.4%)
- エリート女性持久系アスリートの腹圧性尿失禁に関する調査. 2015.(約45%がもれを報告、多くが未経産)
- Dumoulin C, et al. “Pelvic floor muscle training versus no treatment for urinary incontinence in women.” Cochrane Database of Systematic Reviews. CD005654.(骨盤底筋トレーニングの有効性)
(※ 公開前に、各出典の原文(DOI / PubMed)で数値・年・著者・対象集団を最終確認のこと。出典2・4は関連研究が複数あるため、ネイティブ校正時に該当論文を1本に特定して明記すること。)